用語解説集
インコタームズと海上輸送
インコタームズの制定
売り手が海外の買い手と商品の売買をするとき、値決めと共に、輸送の手配をどちらがするか取り決めることが重要です。主な要素は、貨物の引き渡し地、海上運賃の支払い、通関手配などですが、これらを典型的なケースにまとめて一般的な要件として示すことは、貿易の発展にとって有意義であると考えられるようになりました。このような要請を受けて、1920年に設立された国際商業会議所(International Chamber Of Commerce:ICC)が1936年にインコタームズを制定・発表し条件の整理を行いました。
インコタームズの見直しと新たな規定
インコタームズ1936が公表された当時は、在来船による輸送を前提としていましたが、1960年代後半にコンテナによる輸送が急速に伸長すると、在来船を前提とした従来の典型例では不十分となりました。例えば、従来の在来船荷役では、船側に輸出貨物を移動し、クレーンなどで吊り上げ、本船の欄干(Rail)を通過した時に所有権が移転するとされてきましたが、コンテナ貨物では、荷送人はコンテナ船社のターミナルで貨物を引き渡すと実体的に引き渡しが完了してしまい、所有権移転のタイミングも見直す必要が出てきました。
従来のインコタームズで最も頻繁に使われたFOBやCIFという条件は、在来船では有効でも、コンテナ船の荷役や貨物引き受方式には適合しなくなりました。例えば、FOBの条件では、積み地側のコンテナヤードでコンテナをターミナルオペレーターが引き受けたり、ヤード内で移動する費用(ターミナルハンドリングチャージ)を、売り手が負担するのか買い手が負担をするのか判然としません。このチャージを運賃の一部分とすれば買い主が払うことになりますが、運賃の一部でなければ、売り主の負担になります。
これらの混乱を避けるために前記ICCは数度にわたりルールの改正を行いました。2010年の改訂では、いかなる運送手段にも適合する取引の条件としてEXW、FCA、CPT、CIP、DAT、DAP、DDPの7つの条件が規定されました。さらに、海上と内陸水路運送のための条件としてFAS、FOB、CFR、CIFの4条件も規定されました。
注意点
注意すべき点は、運送人にとっては、売り手と買い手の間の取引の条件がどのようなものであろうと、顧客である荷送人との契約は原則として別のものだということです。運送人の関心事は、貨物をどこからどこまで、幾らで運ぶかという輸送契約の中身であり、これらの条件は取引契約の結果決まるということです。
例えば、DDPでの引き受けと言った場合、これはDDPの商品取引に基づいて、輸送を組み立てることを示すに過ぎません。輸送契約としては、引き受け地から引き渡し地まで、一貫輸送をすると言っているだけです。ですから、運送人と揚げ地で関税を支払う(立て替える)者が相違する場合でもDDPの一語で表わされてしまうので、費用負担を明確にしておかないと、紛議のもととなるので注意が必要です。
さらにDDPの場合、運送人が揚げ地での通関や関税支払い手配も引き受けると、通関がスムーズに進まず大幅な遅延を発生させてしまった場合など、通関業者としての責任と運送人としての責任が混同され、船荷証券で免責とされる範囲を超えてまで遅延責任を問われる危険性もあります。
コンテナ輸送は複合一貫輸送に適しており、インコタームズもこれに対応すべく改訂されて来ましたが、ヘーグ・ヴィスビー・ルールで運送人に認められている運送人の免責や責任制限が、近年一貫輸送が内陸に伸びることにより、複雑な様相を示しています。
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